水虫と木酢液・竹酢液
水虫の民間療法にはいろいろなものがあります。
熱い砂浜を歩く、酢に浸す、ティーツリーオイル、重曹、クエン酸、ロウソク、等々…
科学的に効果が確認されているものもあれば、迷信に過ぎないものまで、さまざまです。
そんな民間療法のなかに、酢を使って水虫を治療する方法があります。酢と言っても、一般家庭の台所にある食酢ではありません。木材や竹が原料の「木酢液」や「竹酢液」です。
木材や竹を蒸し焼きにした際にできる「木酢液」、「竹酢液」は、明治時代から、水虫の治療に利用されてきました。
なお、竹酢液は木酢液の一種なので、ここから先は木酢液と竹酢液をまとめて「木酢液」と呼ぶことにします。
木酢液とは。その歴史と効用
日本で木酢液が水虫対策に広く使われるようになったのは明治時代なので、民間の自然療法としては、あまり古くはないです。
木酢液は、もともとは山で炭を焼くときにできる副産物でした。炭焼き窯のなかで、木材の主成分であるセルロースやリグニンが熱で分解されて酢になったものが、木酢液です。高温で生成されるので、こげくさい刺激臭があります。
林業関係者は昔から木酢液の効用を知っていたのですが、林業関係者以外に民間療法として広まったのは、木酢液が工業的に大量生産され、市販されるようになった明治以降です。
ただし、木材を燃やしたときの煙に消毒・殺菌成分が含まれること自体は、ずっと以前から広く知られていました。
燻製は燻煙の殺菌力を利用したもの
たとえば、スモークサーモンなどの燻製(くんせい)は、煙の消毒作用を利用したものです。魚や肉を煙でいぶして(スモークして)腐りにくくすることは、古くから世界中で行われてきました。
燻製のスモーキーな香りは食欲をそそります。しかし、香りをつけるのが燻製の目的ではありません。殺菌・消毒のために煙でいぶしているのです。
木酢液は、その煙から抽出されます。つまり、燻煙の殺菌力を凝縮したものが木酢液です。
燻製の作製時間を短縮するために、食材を煙でいぶす前に、しばらく木酢液に浸すことがあります。これだと殺菌が短時間で完了します。そのあと煙で燻して香りをつけます。木酢液の強力な殺菌効果を利用した調理法です。
有機農法でも木酢液が使われます。土壌改良の手段として、木酢液を農地にまいて作物に有害な菌を殺菌することが、広く行われています。土地にまくためには大量に必要です。明治時代以降、工場で大量に生産した木酢液が、有機農法に使われてきました。
木酢液と水虫(白癬菌)
木酢液の水虫(足白癬)への効果は、専門的な研究の対象にもなっています。
たとえば、岡山大学医学部では、白癬菌を木酢液に浸すと繁殖しなくなることを、実験によって確認しました。その論文の要旨はネット上に公開されています。以下、その引用です。
近年,白癬菌に対する木酢液の抗菌作用が知られており,この最適有効濃度を明らかにするため本研究を企画した。
白癬菌はTrichophyton mentagrophytesとTrichophyton rubrumの2菌種を用い,木酢液は市販品を用いた。
殺菌作用は, T. mentagrophytesでは10%,5%においては6時間接触で,2.5%においては24時間接触で菌糸の発育が見られず, T. rubrumでは,10%以上においては24時間接触で,5%においては48時間接触で菌糸の発育が見られなかった。
「白癬菌に対する木酢液の発育抑制・殺菌作用」(岡山大学公式サイトより引用)
専門用語があるので、簡単に説明します。
この実験で使用された木酢液は一般的な市販品です。
実験で使用された2種類の白癬菌は、どちらも水虫(足白癬)の原因となる菌です。
- Trichophyton ruburumは、皮膚が硬化するタイプの水虫の原因となる白癬菌です。爪水虫の多くはこの菌が原因といわれます。
- Trichophyton mentagrophytesは、皮膚に水疱ができるタイプの水虫の原因菌です。日本人の水虫の原因として一番ポピュラーな菌です。強いかゆみを引き起こします。
どちらも、典型的な水虫の原因菌です。木酢液はそのどちらの菌にも効果があることが医学的に実証されたわけです。
体に使うなら上質な木酢液を
ところで、木酢液には、上質なものと、品質の低いものがあります。品質の違いはどこにあるかというと、原材料となる木材の出どころの違いです。
木酢液は、木材を蒸し焼きにして、出てきた煙から採取します。
その木材ですが、品質が悪い木酢液は、原料に建築廃材が混じっていることがあります。建築廃材には、さまざまな化学物質が含まれています。木酢液に発がん性があると言われることがありますが、その発がん性は、木酢液のせいというよりは、建築廃材等に由来する不純物によるものと言われます。
工業分野で使う木酢液なら、多少の不純物があっても問題ないのかも知れませんが、身体に使う木酢液は、上質なものを使いたいです。
入浴・足湯用の木酢液・竹酢液
木酢液は自然産物ですから、その安全性のもっとも大切な基準は、原材料が良質であることです。
まちがって産業用の木酢液を買わないように注意してください。
身体用に製造された木酢液なら、原材料にも配慮されています。身体用の木酢液は、ラベルに「入浴用」、「お風呂用」などと明記されています。そこを確認してから購入することをおすすめします。
実は、木酢液の製造量の大半は、農業や食品加工などの産業用に生産されたものです。あなたが水虫治療を目的に木酢液を買うときは、くれぐれも、人体に使うことを目的に製造されたものを選んでください。
爪に色がつかない透明タイプ
木酢液は薄茶色の色素を含んでいます。足湯などで長い間使っていると、爪が少し染まる場合があります。
透明な木酢液
着色が気になる方は、透明タイプの木酢液をおすすめします。茶色の色素を除去してあるので、足湯で長時間使っても爪に色が付きません。
化粧水タイプの透明竹酢液
竹酢液にも透明タイプがあります。普通の竹酢液は薄茶色ですが、蒸留精製して色素を除去すると透明になります。
薄めずそのまま皮膚に使う、化粧水タイプの透明竹酢液です。口コミによると、ニキビや頭皮のかゆみに使用する人が多いようです。
足湯不要のスプレータイプ
木酢液を足湯で使うには、準備や後片付けに手間がかかります。もっと簡単に木酢液を使うには、スプレー式もあります。お湯にといて足湯にする手間が不要なので、毎日でも続けやすいです。
局所的に使用できるので手軽で便利です。
岡山大学の実験のとおり、木酢液の効果がでるには時間がかかります。毎日、継続することが大切です。朝外出前に足にスプレーするなど、自分に習慣づけて根気よく続けてください。
木酢液は足や靴の悪臭防止にもなるので、足回りの環境を総合的に整える効果があります。
爪水虫には木酢液の足湯を
白癬菌には多くの種類がありますが、爪水虫の原因となる白癬菌は、Trichophyton ruburumというものです。
先ほど引用した岡山大学医学部の論文には、木酢液は爪水虫の原因菌であるTrichophyton ruburumを殺菌する効果があると明記されています。
したがって、木酢液が爪にちゃんと浸透すれば、その殺菌作用によって症状の改善が期待できます。浸透させるためには、時間が必要です。木酢液、竹酢液の爪水虫へのベストな使い方は足湯です。
映画でも見ながらゆっくり足湯をすると、よいかも知れません。